「金は権力で、貧乏は暴力だよ」


『黄色い家』川上未映子

本を読んでいてぐっとくる1行に出会えれば、それだけで幸運なことだし、そんな幸運は人とシェアたくなります。だから、最近読んだ本の中で出会った印象的な1行をブログで紹介します。

DRUM UPが2日目に紹介したい言葉は、ちょっと怖い1行です。

「金は権力で、貧乏は暴力だよ」(P-386)

不正に入手したカードデータから作られた偽銀行カードを使って、ATMから金を引き出す危険なシノギに主人公の花たちを誘い込むヴィヴィさんのセリフです。「金を手に入れるためにはどうしたらいい? 働けばいい?どこで?どんなふうに?」「それは、あいつらのルールだよ。私はそんなルールは知らない。あんたも知らないでいい。だから金持ちの金につい手はいっさい考えなくていい。どんどんぬいてやればいい。」

「普通の少女たち」が、どのようにドロップアウトしていくのか、犯罪だとわかっていても自分を正当化していくのか。この1行で表現しています。

組織的な詐欺事件が世間を騒がせていますが、「自分たちのルールと、奴らのルールは違うんだ」という考えが、いまの分断された社会に浸透され始めているとしたら、怖い話です。

600ページもの長編ですが、続きが気になって仕方がなく、夜を徹して一気に読んでしまいました。主人公と一緒に黄色い家で共同生活を送る黄美子さんのキャラクターが、なんとも不思議です。不気味さもあり。愚かさもあり、かつ徹底的に自由。 久しぶりに小説世界の中にどっぷり浸かり込む喜びを味わいました。