新書は面白い.14


『イスラームとは何か』小林泰 講談社現代新書

『ユダヤ人の歴史』『ふしぎなキリスト教』を読んだので、最後はイスラーム。これで三大一神教ひと通り。

7世紀アラビア半島に生まれてから14世紀。いまや世界第2位のイスラーム。キリスト教徒は姉妹。中東の片隅で生まれた2つのセム一神教が東西それぞれ世界に広がり、いまも世界を席巻しているのは不思議なことだ。

といっても、この本を読んでみて、イスラームは私たちが慣れ親しんでいる宗教とはだいぶ趣が違うな、と改めて感じる。
最大の特徴は、最初から国家を持って生まれてきているということ。ある日天からの啓示を受けて最後の預言者となったムハンマド。当初は宗教家であったが、啓示を実現するために、やがて政治的指導者、立法、調停者としての役割を持つことになる。その後は対抗勢力マッカとの戦争によってアラビア半島を統一。創始者はキリストのような神的存在ではなく、生身の人間。
法学者によるクルアーン(コーラン)の解釈が国民の生活規定に大きな影響を与えているところはユダヤ教と同じ構造ではある。

特に後半が面白かった。たとえばイスラーム史の中で最も衝撃的かつ重要な事件と言われるカルバラーの悲劇。預言者ムハンマドの孫であるフサインたち数十人が、権力を争うウマイヤ朝の兵に囲まれ水の補給を絶たれた苦しめられたのち、最後は惨殺される。そしてそれを見殺しにした他の市民たちの後悔の念。日本で例えると平家物語のような、語るも涙の話だった。

この出来事を機会に誕生したシーア派。理想を求めて分裂を繰り返すシーア派に対して、現実的と言われ現在は大多数を占めるスンナ派がでてきた時代的背景、そしてイスラームの立場からの見たパレスチナ問題なども知ることができた。本書の最後で示唆している「イスラーム社会の危機感が」、寛容性を失わせ、本書刊行1994年後に起こった数々の痛ましい事件の背景にあるのだろう。
現在34刷り。イスラームについての理解が深まる「定本」でした。