新書はおもしろい.15

『アメリカのいちばん長い戦争」生井英考 集英社新書
本書で著者は、かつてアメリカ最長の戦争と言われたヴェトナム戦争が、その後のアメリカの政治、社会、文化にもたらした多くの諸問題を現在までたどる。(なぜ「かつて」かというと、9.11同時多発テロに端を発したアフガニスタンでの対テロ戦争が、それを上回ったから)
自分は学生の頃70年代アメリカ音楽、カウンターカルチャーにどっぷりハマっていた。特に反戦の象徴だったウッドストックコンサートコンサートでのジミ・ヘンドリックスによるアメリカ国家の演奏には衝撃を受けた。その後多くのヴェトナム戦争をテーマにした映画も観ることになる。アメリカ文化に大きな影響を受けた自分たちの世代は、当時、必然的に、ヴェトナム戦争について大きな関心がある。
本書を読んで、この戦争は、戦地での死傷者など物理的なダメージだけでなく、むしろアメリカのプライドの毀損、モラル崩壊、エリート層への不審、社会の分断化、黒人差別の顕在化など、国内に対してより大きな問題を、戦後も長期間残したということがよくわかった。
戦地に赴いたのは徴兵年齢対象男性の1割に満たない。しかも海外派遣期間は1年なので、兵士は必死になって勝たなくても、任期が終われば帰還できる。そして国内ではこの介入戦争の正当性への疑問も沸き起こり、戦地でのモラルは最後は相当酷いものだったらしい。
すごいのが「フラッギング」
これは、気に入らない上官が寝ている寝袋に手榴弾を投げ込み粉々にすること。撤退時はこれが年間333件も起こってたというのだから!
黒人兵の死傷率が人口比の2倍。より危険な任務に黒人が配置されていたことが明らかになり、アメリカ国内での公民権運動、ブラックパワーが台頭。
また、ニクソン政権下では、反共のための対ブルーカラー戦略が取られる。より多くが戦地に行かされた南部農民と北部労働者の不満が、政府ではなくリベラルエリート層に向かうよう誘導。国内の分裂。ついに労働者たちが大学を襲撃する事件が勃発。これっていまのトランプ政権を彷彿とさせる。
いまはあまり語られることもなく、忘れ去られているように思える。いや、アメリカは忘れたいのかもしれないヴェトナム戦争。
だけど、本書でケネディ就任からトランプまでを辿ることで、この戦争が、今日のアメリカの目を覆うばかりの分断・分裂の源泉だということを読み解くことができた。