新書は面白い.18

『入門シュンペーター』中野剛志 PHP新書
中野剛志さんが出演するYouTube がなんで面白いかというと、官僚出身の経済学者とは思えないそのパッション。
話してるとご自身でも興奮してくるのか、その熱弁ぶりに、こっちもついつい引き込まれる。
シュンペーターは、いまから100年前の経済学者。20世紀最大の経済学者と言われながらも、その理論は異端視され、主流派からは認められてこなかった。
しかし、近年その理論が注目されているらしい。
それは、従来の主流派経済理論が全く機能しなくなってきていることも一因のようだ。
中野さん曰く、日本は高度成長期、まさにシュンペーターの理論通りに政府による積極的な公共投資、企業支援により発展してきた。そして、その後の30年間は真逆のことを行い、自ら破壊するようなことばかりしてきた。停滞するのは当然。
シュンペーターは、経済を大きく成長させるために最も重要な「創造的破壊」は、市場での通常の需要供給からは生まれないとする。大きな技術革新や研究に対しては国をあげてのバックアップも必要と説く。(アメリカのIT産業なんかは、まさにそうだね)
それに反して、1990年から2000年代の日本は1980年代以降のアメリカのコーポレートガバナンス改革を模倣し続けた。政府による産業支援政策をやめて市場原理主義に。株主利益最大化、その結果人件費圧縮。そして外国人株主が1割から3割にまで増える。その後欧米は方針を変えているのに、日本は2012年以降も「成長戦略」と称し、株主価値最大化をさらに加速させてしまったのが最大の過ち。
その結果、日本の大企業では1997年から2018年の間、株主への配当が6.2倍に。そして給料は100から96に減少。あー!
また、シュンペーターの貨幣理論によると、税収の増大による政府の財政健全化は馬鹿げてるし、深刻なデフレ、恐慌を招く危険もあるらしい。あれ、石破内閣大丈夫?
「常識的に考えて、中央政府が発行し国民に与えた金の一部を取り返すために追っかけまわすなんて、まったく馬鹿げた話なのだ」とシュンペーターは嘲笑している。
もうひとつ、シュンペーターの有名な言葉を。
「資本主義は華々しい成功を収めるだろう。しかし、その成功ゆえに、自ら崩壊するだろう。」
成功するのに崩壊するって、どういうこと?
簡単にいうと、資本主義は合理的個人主義の精神を生み出してきた。それは利他を忘れた反英雄的立場をとることでもある。
そうなると、子供や家族のために行動する「家族動機」も薄れてくるので(子供を持つのは経済的合理性ないと考える)、社会全体が未来のための長期的ビジョンでの投資や貯蓄をしなくなる。企業は、短期的な利益に走り、長期間の研究開発ができなくなる。個人は将来の子孫のための蓄財はしない。
かくして資本主義は発展しなくなり、そのエンジンはいずれは停止。やがて社会主義へとゆっくり移行するだろう。
シュンペーターのこの予想が将来当たるのかはわからないけど、100年前に、いまの先進国の少子化の状況を言い当ててるって、すごくないか?
古典といえば古典。でも、こうして中野さんのような人が現代社会に置き換えて説明してくれると、自分のような経済学オンチでもその理論にリアリティを感じるし、何よりも堅苦しい経済学を楽しく読むことができる。
これも、新書の手軽さですね。