新書は面白い.22

『日本経済の死角 収奪的システムを解き明かす』河野龍太郎 ちくま新書
読み終えるまでに随分と時間がかかったけど、読み応えがあり納得できる内容だった。日本経済の長期低迷の理由と収奪システムを、データに基づき解明してくれる。
日本は生産性が上がらないから、賃金が上昇してこなかったというのは間違い。実際には過去四半世紀に生産性が30%上がっているのに、実質賃金は全く上がっていない。寧ろ円安で3%低下している。
その間にアメリカの実質賃金はは3割上昇。ヨーロッパ諸国も日本よりはるかに上昇してきた。
実質賃金を上げないから国内消費は長期低迷。そのため企業は海外投資にばかり目を向けてきた。当然その恩恵は国内に還元されていないし、本当のところ海外投資利益率は期待されてきたより実質は低い。キャピタルロス含めると4%程度。
これだけ国民が厳しい状況にあるのに、最近まで実感されてこなかったのは
1)大手企業のサラリーマンは定昇、昇格な度で年平均2%上がるので、個人ベースでは賃金が上がっているために実質賃金の低下を実感しにくかった
2)日本が消費余剰(お買い得感)が高い社会だったから
3)ゼロインフレが長く続いた
しかし、2022年以降の円安インフレでそれが瓦解し始めると、生活困窮者増。2024年以降の選挙結果にも反映。極端な主張を掲げる政党が躍進。欧米を追いかける形でアンチエスタブリッシュの波。
収奪してきた株式市場とイノベーション。
株式市場は企業が長期投資を行うための資金を調達する場ではない。株式市場の本質は、従業員を中心として企業が生み出してきた付加価値を、株主が幾つかの手段を通じて抜き取る場所。
イノベーションは必要条件だけど、十分条件とは言えない。実際デジタルイノベーションにより世の中は大層便利にはなったが、経済全体の成長ペースは全く高まっていない。寧ろイノベーションは労働賃金抑制に向かい、コストカットの手段となった。イノベーションは高スキル者にのみ有利なものに。
結果、アメリカのトップ1%の国民所得は20%、下位50%のそれはたったの10% まで格差が広がる。酷い有様だ。
社会が収奪的イノベーションを許容することになったのが今日。
最近読んだ経済関連の新書では、以前取り上げた齋藤ジン『世界秩序が変わるとき』と並んで面白かった。やっぱり経済の大きな転換点に来ているんだな。お薦めできる内容です。

