新書は面白い.25


『言葉の力』俵万智 新潮新書

この味がいいね」と君が言ったから七月六日はサラダ記念日

知らない人はいない有名なこの短歌によって、私の誕生日7月6日はサラダ記念日ということになってしまった。

ほんとのこと言うと、俵万智さんはボーイフレンドにカレー味の唐揚げを褒められた時にこの一首を思いついたんだけど、「7月」と「サラダ」、「サ」行の流れがよかったからサラダにした。

カレー好きだから「カレー記念日」の方が良かったんだけどなあ、なんて私のボヤキはさておき。

めっちゃ売れてるこの新書。言葉を紡ぐことを職業としてきた俵さんが、いまの社会で直面し感じたこと、常日頃思っていることを素直に書かれていて、考えさせらることが多かった。

例えば俵さんが実際に電車の中で耳にしてしまった若者の会話

「俺さあ、腹立ってさあ。面と向かって電話しちゃったよ」

「ん??」 そう。メール、チャットなど話し言葉よりも書き言葉でのコミュニケーションが圧倒的に主流になりつつあるいま。電話という機械を通していても、肉声であれば、彼らにとってはもはや立派な「面と向かう」行為なんだ。

それぞれの家の洗剤の匂いして 汗ばんでゆく子らのTシャツ

これは、俵さんが沖縄の石垣に住んでいた頃に詠んだ一首だ。いかにも夏らしい、沖縄の青い空の元の家々の情景が浮かんでくる素敵な短歌だと思うのだが、これがSNSでとんでもないクレームを受けることに。

「それぞれの家の洗剤の匂いがわかるということが、おかしいと知っていただきたいのです。大量の化学物質のために、さまざまな健康被害が起きています」「香害に苦しんでいる人が大勢いらっしゃいます」

挙げ句の果てにこんな返歌まで受ける

香害を知らぬか知ってか加担するこの罪の重さは海よりも深い

言葉が拒まれてしまう。歪められる。切り取られる。これがSNS社会。やれやれ。

俵さんの短歌は言葉の使い方が贅沢だと言われる。例えば、

なんでもない会話なんでもない笑顔なんでもないからふるさとが好き

いい短歌だな。たった33文字しかないのに「なんでもない」を3つも使っちゃってる。限られた文字数だからこそ、気前よく使っちゃう贅沢。一点突破!貧乏贅沢自慢みたいな、宵越しの金は持たねえぜ、なんて。短歌の醍醐味だ。

最後にNHK短歌の入選作を

友に送ったメールの返事を待つ二時間 五日は待てた手紙の頃は(村田知子)

「LINEに既読がなかなかつかないじゃん、何してんだー」

便利になったぶん、待つことが苦手になった私たち。言葉に対してあまりせっかちにならず、立ち止まって少し考えるゆとりが必要だね。反省。